大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1007号・昭44年(ネ)133号 判決

一、被控訴人福松および同カネの両名は、被控訴人浩行の父母として、被控訴人浩行の右受傷および後遺症によつて蒙つた精神上の苦痛に対する慰藉料を控訴人らに対し請求するものであるところ、なるほど、受傷の部位が眼部であり、回復し難い重大な障害を残していることからして被控訴人浩行は将来学業、職業選択、結婚等社会生活のすべてにわたつて多大な制約を受けることとなり、そのため、父母たる被控訴人福松および同カネにおいて味わつた精神的苦痛が決して軽いものではなかつたことを推認するに難くはないけれども、民法第七一一条の解釈上、不法行為によつて身体を害された者の父母が自己の権利として慰藉料の請求ができるのは、右身体障害により、被害者の父母において、被害者が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときにかぎられると解すべきものであり(最高裁判所昭和四二年六月一三日判決、集第二一巻第六号一、四四七頁参照)、既に認定した事実関係のもとにおいては、本件被害者浩行の父母たる被控訴人福松および同カネの蒙つた精神的苦痛の程度は、これらの者が自己の権利として右にいう慰藉料を請求できる程度にいたつていたとは認め難いから、右被控訴人両名はいずれも控訴人らに対し精神的損害の賠償を求め得ないものといわなければならない。

二、控訴人らは、「被控訴人らは、本件傷害事件の加害者が誰であるか全く不明で、控訴人らに対する損害賠償請求権も想像の域を脱しない不明確なものであつたにかかわらず、右権利が確実に存在するものの如く装つて前記仮差押におよんだものであるから、右仮差押は不法不当のものである。」と主張する。

しかし、本訴に対する前記判断において明らかなとおり、本件傷害事件の加害者は控訴人ら夫婦の子の浩であると認められ、被控訴人浩行の控訴人らに対する損害賠償請求が認容されているのであるから、同被控訴人に対する関係では控訴人らの前記主張はその前提を欠くことに帰し、また被控訴人福松および同カネについては、結論においていずれも控訴人らに対する損害賠償請求権を有しないこととなるとはいえ、右は同被控訴人らの蒙つた精神的苦痛の程度に対する当裁判所の法律的評価が同被控訴人らの主張するところと結論を異にした結果に過ぎないから、本訴において同人らの請求が認容されなかつたことの一事をもつて、同人らが本訴を提起したり仮差押をしたりしたことを不当ならしめるものとはいえず、他に同人らのした仮差押を控訴人らに対する不法行為たらしめる事由を肯認せしめるに足る資料はない。

しからば爾余の点につき判断するまでもなく控訴人らの反訴請求はいずれも理由がないことが明らかである。

(古山 川添万 秋元)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!